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鱧・穴子・鰻の茶漬け
はも・あなご・うなぎのちゃづけ |
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作品ID | 49996 |
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著者 | 北大路 魯山人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「魯山人の食卓」 グルメ文庫、角川春樹事務所 2004(平成16)年10月18日 |
初出 | 「星岡」1932(昭和7)年 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2010-02-02 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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鱧
茶漬けの中でも、もっとも美味いもののひとつに、はもの茶漬けがある。これは刺身でやるたい茶漬けと拮抗する美味さだ。洋食の流行する以前の京、大阪の子どもに、「どんなご馳走が好きか」とたずねると、「たい」と「はも」と、必ず答えたものだ。それほど、たいとはもは京阪における代表的な美食だった。
はものいいのは、三州から瀬戸内海にかけて獲れる。従って、今も京阪地方の名物のようになっている。はもは煮ても焼いても蒲鉾に摺り潰しても、間違いのないよいさかなである。とりわけ、焼いて食うのが一番美味い。焼きたてならばそれに越したことはないが、焼き冷ましのものは、改めて遠火で焙って食べるがよい。要するに、焼いたはもを熱飯の上に載せ、箸で圧し潰すようにして、飯になじませる。そして、適宜に醤油をかけ、玉露か煎茶を充分にかけ、ちょっと蓋をする。こうして、一分間ばかり蒸らし、箸で肉をくずしつつ食べるのである。
はもは小味ないい脂肪があるために、味が濃くなく、舌ざわりがすこぶるいい。しかも、やり方が簡単だから、関西人でこの茶漬けを試みない者はなかろう。しかし、東京で試みようとすると、ちょっと容易ではない。なぜなら、今、東京にあるはもは、多く関西から運ばれるので、そうたくさんはない。従来の東京料理には、これを用いることがなかったために、魚屋の手にすら入らないことになっている。東京で、はもを求めようとするには、関西風の一流料理屋によって求めるよりほか仕方があるまい。
それにしても、東京に来ているはもは、関西で食うように美味いわけにはいかぬ。また、東京近海で獲れるはもは、肉がベタベタして論にならぬ。そこで、代用品というのも当たらないかも知れないが、あなごとか、うなぎとかが同じ用に役立つ。
穴子
あなごもいろいろ種類があって、羽田、大森に産する本場ものでなくては美味くない。これも茶漬けにするには、その焼き方を関西風にならうがいい。東京のうなぎのたれのように甘いたれではくどくて駄目だ。京阪でうなぎに使うような醤油に付けて焼くのがいい。それを茶漬けにするには、細かくざくざくに切り、適宜に熱飯の上に載せ、例のように醤油をかけて茶をかける。
これも、ややはもに似た風味があって美味い。しかし、はもと違って、あなごでもうなぎでも少々臭みがあるから、すりしょうが、または粉山椒を、茶をかける前に、箸の先にちょっと付けるくらい入れた方がいい。
あなごの美味いのは、堺近海が有名だ。東京のはいいといっても、関西ものに較べて調子が違う。焼くには堺近海のがよく、煮るとか、てんぷらとかには東京のがいい。
鰻
次ぎはうなぎだが、この場合のうなぎは宵越し、例えば翌日に残ったものの、焼き冷ましを利用していい。この時は、醤油を付けて一ぺん火に焙る必要がある。本来は江戸前風に蒸しにかけないで、関西風に直に焼くがい…