えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
唱歌
しょうか |
|
作品ID | 50411 |
---|---|
著者 | 石川 啄木 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「啄木全集 第二卷」 岩波書店 1961(昭和36)年4月13日 |
入力者 | 蒋龍 |
校正者 | 阿部哲也 |
公開 / 更新 | 2012-07-13 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
校友歌
澁民尋常小學校生徒のために。
丙午七月一日作歌。
一
文の林の淺緑
樹影しづけきこの庭に
桂の庵の露むすび
惠みの星を迎ぎ見て
春また春といそしめば
心の枝も若芽すも。
二
芽ぐめる枝に水そそぎ
また培ふや朝夕に
父母のなさけを身にしめて
螢雪の苦をつみゆかば
智慧の木の實の味甘き
常世の苑も遠からじ。
三
導びく人の温かき
み手にひかれて睦み合ふ
我が三百の兄弟よ
木枯ふけど雪ふれど
きえぬ學びの燈の
光を永久に守らまし。
四
雪をいただく岩手山
名さへ優しき姫神の
山の間を流れゆく
千古の水の北上に
心を洗ひ筆洗ふ
この樂しみを誰か知る。
五
山は秀でて水清く
秀麗の氣をあつめたる
このみちのくの澁民の
母校の友よいざさらば
文の林の奧深く
理想の旗を推し立てむ。
[#改ページ]
別れ
澁民小學校卒業式に歌へる。
譜「荒城の月」に同じ。
一
心は高し岩手山
思ひは長し北上や
こゝ澁民の學舍に
むつびし年の重りて
二
梅こそ咲かね風かほる
彌生二十日の春の晝
若き心の歌ごゑに
わかれのむしろ興たけぬ
三
あゝわが友よいざさらば
希望の海に帆をあげよ
思ひはつきぬ今日の日の
つどひを永久の思ひ出に
(明治四十年三月作)