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湯豆腐のやり方
ゆどうふのやりかた |
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作品ID | 51159 |
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著者 | 北大路 魯山人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「魯山人著作集 第三巻 料理論集」 五月書房 1980(昭和55)年12月30日 |
初出 | 「星岡 28号」星岡窯研究所、1933(昭和8)年3月30日 |
入力者 | 富田倫生 |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2015-04-24 / 2015-03-31 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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一番最初鍋の中に切れ目のある昆布を敷き、鍋の深さの半分目以上水を入れる。三寸の鍋なら上一寸を余して水を入れ、およそ一寸角くらいに切った豆腐をこわさないようにそっと入れる。杉箸ではさんでそっと入れる。それを火力の強い火の上にかけ、鍋の蓋をしておく。約五分位で、火さえ強ければ、初めてぽっと煮え上がる。その時豆腐を箸でおして見ると軽い弾力ができていて、肴の白子かクリームのようにぽとぽとしていい煮え加減になっている、その刹那がうまい。これを煮すぎて豆腐がしまって来たり、豆腐と豆腐がくっついたり、鬆がたって来たりしてはもううまくはない。
だから最初から一時に鍋の中に豆腐をたくさん入れることはよくない。酒の肴にするような場合は、三切れか四切れずつ食べては入れ、食べては入れ、食べるほどに少しずつ持って来ることを心がけなくてはならん。この心がけあれば、葛を入れて豆腐の鬆を防ぐトリックを用うるまでもない。次に湯豆腐の鍋の中に醤油入れを入れて醤油を温める心要はあるまい。鰹節のだしが出るためのようだが、強いてそれをするにも及ぶまい。要はあつい豆腐にあつい醤油をつけて食べる方がいいか、あつい豆腐につめたい醤油をつけてはいけないか、という問題だ。
京都の永観堂とか通天とかに行くと、野外の冷たい空気に触れて照り輝く紅葉などを賞しつつ、湯豆腐をやる風流があるが、こうした寒きに過ぎた場合には熱い醤油もふさわしいが、部屋の中では強いてそうしなくていいことと思う。
(昭和八年)