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|  公孫樹 いちょう | |
| 作品ID | 52298 | 
|---|---|
| 著者 | 石川 啄木 Ⓦ | 
| 文字遣い | 新字旧仮名 | 
| 底本 | 「花の名随筆11 十一月の花」 作品社 1999(平成11)年10月10日 | 
| 入力者 | 岡村和彦 | 
| 校正者 | 阿部哲也 | 
| 公開 / 更新 | 2012-12-26 / 2014-09-16 | 
| 長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) | 
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秋風死ぬる夕べの
入日の映のひと時、
ものみな息をひそめて、
さびしさ深く流るる。
心のうるみ切なき
ひと時、あはれ、仰ぐは
黄金の秋の雲をし
まとへる丘の公孫樹。
光栄の色よ、など、さは
深くも黙し立てるや。
さながら、遠き昔の
聖の墓とばかりに。
ま白き鴿のひと群、
天の羽々矢と降りきて、
黄金の雲にいりぬる。――
あはれ何にかたぐへむ。
樹の下馬を曳く子は
たはれに小さき足もて
幹をし踏みぬ。――あゝこれ
はた、また、何ににるらむ。
ましろき鴿のひと群
羽ばたき飛びぬ。黄金の
雲の葉、あはれ、法恵の
雨とし散りぞこぼるる。
今、日ぞ落つれ、夜ぞ来れ。――
真夜中時雨また来め。――
公孫樹よ、明日の裸身、
我、はた、何に儔へむ。
十一月十七日夜