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毘沙門の名号に就いて
びしゃもんのみょうごうについて
作品ID52938
著者南方 熊楠
文字遣い旧字旧仮名
底本 「南方熊楠全集第六卷 〔文集Ⅱ〕」 乾元社
1952(昭和27)年4月30日
初出「集古 丙寅ノ二」1926(大正15)年3月
入力者小林繁雄
校正者フクポー
公開 / 更新2017-04-15 / 2017-03-19
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 クベラ、又クピラが毘沙門天の異名なる由は、佛教大辭彙卷一倶肥羅天の條既に述べある。
 熊楠謂く、此二名が一神を指すを立證するに最もよき文句は、梁朝に勅撰された經律異相卷四一に羅閲城人民請佛經から引た者だ。佛が鷄頭婆羅門の供養を許した時、釋提桓因(帝釋)語テ二[#挿絵]沙門天王ニ一曰ク、拘※[#「革+畢」、U+97B8、50-5]羅(クベラ)汝此婆羅門辨ゼヨ二第三食ヲ一、答テ曰ク受クレ教ヲとある。クベラは實名、[#挿絵]沙門は通稱の如くみえる。アイテルの梵漢辭彙一九三頁には、此神、前世夜叉なりしが佛に歸依して沙門たりし功徳により北方の神王に生れかわつた。其沙門と成た時、他の沙門共驚いて伊ハ是レ沙門と叫んだ、それ故毘沙門(ヴアイスラマナ、是男も沙門かの義)の稱へを得たとあるが、これは何の經に出た事か識者の高教をまつ。伊ハ是レ沙門は音義兩譯らしい。金[#挿絵]羅(蛟神)は、大灌頂神咒經卷七などをみると毘沙門とは別神らしい。印度で古來鰐を拜する其鰐神だろう。吾邦に金[#挿絵]羅を航路の神とするも此因縁か。佛弟子に金[#挿絵]羅比丘あり、獨處專念を稱せられた(増一阿含經三)是も鰐を奉じた氏子だらう。
(大正一五、三、集古、丙寅ノ二)



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