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黎明と樹木
れいめいとじゅもく |
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作品ID | 53581 |
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著者 | 萩原 朔太郎 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房 1977(昭和52)年5月30日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2011-08-07 / 2018-12-18 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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この青くしなへる指をくみ合せ、
夜あけぬ前に祈るなる、
いのちの寂しさきはまりなく、
あたりにむらがる友を求む。
そこにふるへ、
かくれつつうかがひのぞく榎あり、
いのりつつ、一心に幹をけづりしに、
樹樹はつめたく去り行けり。
みなつらなめて逃れゆく、
黎明の林を出づる旅びとら、
その足竝に音はなけれど、
水ながれいでて靴のかかとをうるほせり。
かくばかり我に信なきともがらに、
なにのかかはりあるべしやは、
空しく坐して祈り、
遠き遍路に消え殘る雪を光らしむ、
いのちはひとりのもの、
ただ我が信願をかくるにより、
木ぬれにかかり、
有明の月もしらみてふるへ悲しめり。