えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
感傷の塔
かんしょうのとう |
|
作品ID | 53600 |
---|---|
著者 | 萩原 朔太郎 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「萩原朔太郎全集 第三卷」 筑摩書房 1977(昭和52)年5月30日 |
入力者 | kompass |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2011-08-13 / 2018-12-18 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
塔は額にきづかる、
螢をもつて窓をあかるくし、
塔はするどく青らみ空に立つ、
ああ我が塔をきづくの額は血みどろ、
肉やぶれいたみふんすゐすれども、
なやましき感傷の塔は光に向ひて伸長す、
いやさらに伸長し、
その愁も青空にとがりたり。
あまりに哀しく、
きのふきみのくちびる吸ひてきずつけ、
かへれば琥珀の石もて魚をかこひ、
かの風景をして水盤に泳がしむるの日、
遠望の魚鳥ゆゑなきに消え、
塔をきづくの額は研がれて、
はや秋は晶玉の死を窓にかけたり。