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生き烏賊白味噌漬け
いきいかしろみそづけ
作品ID54945
著者北大路 魯山人
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人味道」 中公文庫、中央公論社
1980(昭和55)年4月10日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-10-19 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 東京で西京漬けと呼んでいるのは、京都産の白味噌に魚類を漬け込んだものを言う。白味噌は京都が本場で、京都以外でできているものもないではないが、品が落ちる――となっている。白味噌は辛味噌からみると、大豆と糀とがかっていて塩が少ないために、甘酒ほどではないが、甘味のかった味噌である。これに漬け込む魚類は大体決まっていて、まながつお、あまだい、太刀魚が最適である。さわら、たいなども漬けないではないが、肉が締まりすぎる嫌いがあって、最適とは言えない。同じく肉は締まっても、ぶりはかなり効果的でまず例外である。白味噌漬けというものは元来高級品であり、且つ味噌そのものからが廉価ではないから、下らない魚類を漬けることは許されないわけである。ところがいかという例外がある。いかは肉の厚い大形のすみいか、あおりいかが認められて、やりいかは、やすっぽく扱われているが、新しくさえあればやりいかほど小味で、微妙な美味さをもったものはないのである。生きているやりいかの皮を剥いで刺身として食う美味は、すみいかやあおりいかの刺身の比ではないのである。しかし、知る人の少ないのは惜しい。生きたやりいかを白味噌漬けにする経験や、賞味する人に至ってはほとんど絶無にちかいかも知れない。これはやりいかの本場に残され、且つ家庭料理に漏れている料理の穴であると言えよう。

 〔家庭で漬けようとする場合の心得〕

○白味噌ばかりでは甘味が足りないから、相当多量に砂糖を加えること。
○白味噌の有する水分では足りないから、冷酒を加えて、糠味噌ぐらいのやわらかさに溶くこと。
○魚類は切り身に一旦塩を振って、塩が中身まで通った時分(約五時間ぐらい)に程々に漬け込むこと。漬かり加減は春の陽気で、まる二日目くらいから五、六日目までがよい。冷蔵庫に置くか否かでは大変な相違があるから、この辺のことは各自が常識で考えなければならない。
○味噌漬けの魚は焼くのが一番の良法である。焼くときに味噌から出して味噌を洗い落とす。
○網に直にのせて焼くことは禁物である。網にくっついて始末がわるくなるからである。
○金串は扇の骨形に刺す。ぜひとも金串に刺して焼くことである。どんな焼き魚でも、そうした方が美しく焼けて、どんなに焼きやすいか知れない。
○火のおこり方が激しい味噌漬けは焦げやすいから遠火で焼くのがよい。火にかけて、魚の上を金物のなべぶたで覆うと、とてもうまく蒸し焼き風に火が通って、まちがいなく焼ける。
○金属製のなべぶたをかぶせて焼くことは、いついかなる魚を焼くときにも利用するのがよい。
 一大秘訣とでも言うべきであるからである。
(昭和十四年)



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