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海苔の茶漬け
のりのちゃづけ |
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作品ID | 54976 |
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著者 | 北大路 魯山人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「魯山人味道」 中公文庫、中央公論社 1980(昭和55)年4月10日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2012-11-22 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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のりの茶漬けは至極簡単だが、やっている人は少ない。缶詰や壜詰になっているのりの佃煮には、いい香りのものは見られない。一年も二年も経って日増せになったのりとか、青のりのまじった生のりの屑だとか、言わば廃物をもって拵えたのが缶詰や壜詰ののりの佃煮である。悪いのになると、大部分青のりであるから、青のりの臭みと味とに満ちている。
ほんとうに美味しいのりの佃煮が食べたい人は、売りものにろくなものはないから、自前でつくるよりほか仕方がない。
自分で拵えるのは、生のりの採れる時分に、生のりを生醤油でごとごと、とろ火で煮つめることだ。生のりの手に入らぬ土地の人は、もらいものの干しのりなどを醤油で煮ればよい。煮つまらなくて、醤油がだぶだぶしているような煮方は不味い。そのねちねちと煮えたやつを、熱い御飯の上にのせて煎茶をかける。それに少量のわさびを入れる。それだけでいいので、のりの茶漬けほど簡単なものはない。酒の後などで食べるには、至極適した茶漬けと推奨できる。
この茶漬けをぜいたくに食べようと思う場合は、なるべくいいのりを惜し気もなく使うべきである。のりがよければよいだけの美味さがあるから、味をやかましく言う者は、できるだけ上等ののりを煮るがいい。
こういうのりの茶漬けは誰しもやっていることだが、これから私が話そうとするのは、もっと手軽なのりの茶漬けである。
それは、いいのりをうまく焼いたものか、焼きのりのうんと上等のを、熱い御飯の上に揉みかけ、その上に醤油をたらし、適当にわさびを入れて、茶を注げばよろしい。熱い御飯をのりで巻いて食べる人はたくさんいるが、焼いたのりを茶漬けにする人はあまり見受けぬ。
一椀についてのりの分量は、せいぜい一枚か一枚半を使う。これは朝によく、酒の後によく、くどいものを食った後には、ことさらにいい。多忙の時の美食としても効果がある。
こんな茶漬けをよろこぶ者は、通人中の通人に属するだろう。茶の代りに、かつおぶしと昆布のだしをかけて食べるのもよい。これらは副菜の漬けものを一切要しない。ぜいたくな泊り客でもあった際には、朝食に出すことである。もちろん、上等の煎茶を使用するにしくはない。
のりの話が出たついでに、のりの焼き方について、ひと言申し添えておこう。
のりの焼き方は、なかなかむずかしい手際のひとつである。手際よく上手に焼かなければ、一帖三円ののりも、一円ほどの値打ちしかないような馬鹿な結果が生じる。手際ひとつで、一円ののりを三円の値打ちに上げることも、いや、いくらでも支払うよと、人がよろこぶまでに焼き上げることもできる。それもこれも、焼く人の腕であり、その人の料理に対する教養がものを言うわけである。
のりを焼くのに両面を焼くな――と、よく言われるのは、貴重なのりの香りが失せるからである。炭火も黒い中はガスが発生し、湿度が高いか…