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陶器鑑賞について
とうきかんしょうについて
作品ID55080
著者北大路 魯山人
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人陶説」 中公文庫、中央公論新社
1992(平成4)年5月10日
入力者門田裕志
校正者木下聡
公開 / 更新2019-03-23 / 2019-02-22
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 大正八、九年ごろという古い話になりますが、こういう話がありました。当時の入沢医学博士から私が直接に聞いたことでありますが、博士がある時、図らずも大河内正敏理博と東海道西下の汽車に同乗したことがあります。その際のこと、ちょうどいい機会と医博は思いついたのでしょう、「この車中に於て一、二時間の間に、陶器鑑賞に関して素人の僕にわかる様に話して貰えないか」と、日頃の希望を注文してみましたところ、大河内博士は、「それはちょっとむずかしい問題で、いくら簡単に話したところで到底一時間や二時間で話せるものではありません。詳しく説明すれば一年も二年もかかるでしょう」
 車中一、二時間それはだめだ……。
 と言った塩梅の返事だったそうです。
 そのころの私はまだ陶器美術に関しては、全然知識のなかった時代でありましたので、陶器の話というものはそんなものか……と思っておりました。しかし、もし只今の私でありましたら、その質問に対して、医博の注文通り一、二時間でそのご要求にお答え出来たであろうというような気がいたします。
 その時の入沢博士の質問の気持と、大河内博士のお話になろうと考えておられた内容とには大きな開きがあったように思われます。入沢博士の質問は、何の知識もないものに、どうしたならば簡単に名器鑑賞の要領が掴めるかという点にあったらしく思われますが、それに対し大河内博士の該博な知識では陶器すべてに関し詳細にA・B・Cから説き起こし、各作者、各年代等から研究を進めて行って鑑賞に入ろうとするにあったらしく思われます。
 そういう該博な知識を百科辞典式に僅かな時間で話すことは元々無理であり、一年あっても二年あっても到底出来るものでないことは当然であります。そして大河内博士にしてみれば、何と猪口才に、ズブの素人がチョコマカと陶器の話を寸時に聞こうなんて何だ……というような、勿体振りもあったと想うのであります。
 私が今の私ならば一、二時間で出来ただろうと言いましたのは、こういう理博式をとらずに名陶器を鑑賞する方法として、最初から製作年代の中心を慶長ごろに置き、慶長以前を可とし、以後を無価値とし、芸術的鑑賞品または鑑賞無価値の実用器という区別の一点に重きを置き、陶器には実用器と鑑賞品の二通りある点を先ず呑みこませて、段々と芸術談を試みて行くことでしょう。
 陶器をやきものとしてすべてを研究的に見て行くとなると、その作られた地方、土の性質、焼き方、窯、釉、絵付けの具合から、誰々の作だとか、その年代など色々と詳細に究めて行かなければなりませんが、これを単なる土から成った工芸美術品として、その持っている芸術的価値、美術的価値というものだけを取り上げ、あたかも名画を見たり、能書を見たりするような心構えで鑑賞する方法に話を進めて行けば、簡単に誰にでも得心して貰う説明が出来ると思うのであります。例…

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