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ゆめ
副題(これは、叙景・叙述のない一挿話である)
(これは、じょけい・じょじゅつのないいちそうわである)
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新編中原中也全集 第四巻 評論・小説」 角川書店
2003(平成15)年11月25日
入力者村松洋一
校正者shiro
公開 / 更新2018-10-22 / 2018-09-28
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

人物
 男
 女
 男の友人

 貧弱な洋室。柱はすべて、黒く太し。左側壁に一つの大きい窓。窓際に机、机の傍に煖炉。右側壁手前に入口。正面壁右隅に隣室に通ずるドアあり。――窓の外一間の所には隣家相接して建ち在ることゝす。



(晩秋の、宵である。男机に凭りて書きものをしてゐる。女が入口より這入つて来る。――室チラケてゐる)

女 今晩は。黙つて来たのよ。
男 や、今晩は。
女 何か書いてるのね、ぢやお邪魔ぢやなくつて?――尤もあなたが書いてるのは何時ものことなんだから。
男 別に邪魔ぢやありませんよ。
女 あたしが此の間片附けて帰つてから、まだ三日ばかしにきやならないんだけれど、まあまた散らかつたわね。
男 (四辺を見廻す様にして)はははは。
女 だけどあたしあの時帰つてからかう思つたわ。小説家なんかの部屋を夢闇に片附けるのは却て不可ないことだつて。
男 僕は小説家ぢやありませんよ。
女 さう? ほんたう?――あんなことを言つてるよう!――あゝあたしお邪魔してゐた、構はずお書きなさいな。
男 ぢやもう三四行で此の一節が終りますからね。(書き始める)
女 まあ奇麗な字を書くわねえ。そんな奇麗な手のお手紙を貰つた女の人が、此の世の中に幾人あるのか知ら?――あらあたし、またお邪魔してたわ。もうもうやめ。
男 さあお終ひだ! (ペンを擱いて向き直る)
女 恰度よかつたわね。(間。外を風の過ぎる音)おゝ寒む。外はもう寒いわ。これからはかうして部屋に籠つて煖炉のそばにゐるのが一等好いわね、あなたは幸福だわ。あたしもこれからはチヨイチヨイ来て――あなたお書きなさいな、あたしこゝで静かにあたつてゐるわ。そしてコヽアでも買つて来て立てゝあげるわ。
男 有難いなあ。(一寸思ひ出したやうにペンを取つてチヨツチヨツと書く。女覗き込むやうにしてみてゐる。直きペンを置く)
女 ね、人物の名前を直したのね。あなたどんなにして名前なんかを考へ出すの、あたしの一寸知つてる人はね、男だつたら自分の学校友達なんかゝら、女のだつたら恋人や恋人のお友達の名を色んなにモヂて作るんですつて。
男 一寸知つてるつて何といふ男?
女 下らない人だわ。
男 へえー。
女 (少し声を低く)ね、そこの反古紙にでも好いから、あなたの今迄の恋人の名前を書いてみない………?
男 如何して。
女 だつてあたし、なんだかみたい気がするんですもの。
男 (女の口調を真似て)下らない人だわ。
女 ぢやあなたは、顔で言つたらどんな風なのがお好き?
男 さあね。(女の顔を見入りながらからかふやうな眼付になる)コーカサス型で以て、鼻筋だけは独逸女のやうに何処かかうキリツとしたところのある顔、と言へば好いのかな。
女 コーカサス型つて、ぢやどんなの?
男 あなたの様なのさ。
女 あははははははは………嘘だわ。
男 (従いて笑ひなが…

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