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かろきねたみ
かろきねたみ |
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作品ID | 57332 |
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著者 | 岡本 かの子 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「岡本かの子全集9」 ちくま文庫、筑摩書房 1994(平成6)年3月24日 |
入力者 | 光森裕樹 |
校正者 | 大森静佳 |
公開 / 更新 | 2016-02-18 / 2015-12-24 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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女なればか
力など望まで弱く美しく生れしまゝの男にてあれ
甲斐なしや強げにものを言ふ眼より涙落つるも女なればか
血の色の爪に浮くまで押へたる我が三味線の意地強き音
前髪も帯の結びも低くしてゆふべの街をしのび来にけり
天地を鳴らせど風のおほいなる空洞なる声淋しからずや
朝寒の机のまへに開きたる新聞紙の香高き朝かな
我が髪の元結ひもやゝゆるむらむ温き湯に身をひたす時
かろきねたみ
捨てむなど邪おもふ時に君いそ/\と来ぬなど捨て得むや
ともすればかろきねたみのきざし来る日かなかなしくものなど縫はむ
三度ほど酒をふくみてあたゝかくほどよくうるむさかづきの肌
淋しさに鏡にむかひ前髪に櫛をあつればあふるゝ涙
生へ際のすこし薄きもこのひとの優しさ見えてうれしかりけり
悲しさをじつと堪えてかたはらの灯をばみつめてもだせるふたり
をとなしく病後のわれのもつれがみときし男のしのばるゝ秋
袷の襟
垢すこし付きて痿へたる絹物の袷の襟こそなまめかしけれ
君なにか思ひ出でけむ杯を手にしたるまゝふと眼を伏せぬ
むづがゆく薄らつめたくやゝ痛きあてこすりをば聞く快さ
ちら/\と君が面に酔ひの色見えそむる頃かはほりのとぶ
唇を打ちふるはして黙したるかはゆき人をかき抱かまし
昂ぶりし心抑へて黒襦子の薄き袖口揃へても見つ
いつしかに歔欷てありぬ唄ひつゝ柳並木を別れ来にしが
暗の手ざはり
美しくたのまれがたくゆれやすき君をみつめてあるおもしろさ
たま/\にかろき心となれるとき明るき空に鳥高く飛ぶ
春の夜の暗の手ざはりぼと/\と黒びろふどのごとき手ざはり
君のみを咎め暮せしこの日頃かへりみてふと淋しくなりぬ
唇をかめばすこしく何物かとらえ得しごと心やはらぐ
めずらしく弱き姿と君なりて病みたまふこそうれしかりけれ
いとしさと憎さとなかば相寄りしおかしき恋にうむ時もなし
旧作のうちより
橋なかば傘めぐらせば川下に同じ橋あり人と馬行く
ひとつふたつ二人のなかに杯を置くへだたりの程こそよけれ
ゆるされてやや寂しきはしのび逢ふ深きあはれを失ひしこと
愛らしき男よけふもいそ/\と妻待つ門へよくぞかへれる
折々は君を離れてたそがれの静けさなども味ひて見む
うなだれて佐久の平の草床にものおもふ身を君憎まざれ
山に来て二十日経ぬれどあたたかく我をば抱く一樹だになし(以上二首一人旅して)
いばらの芽
あざやかに庭の面の土の色よみがへれるが朝の眼に泌む
我が門のいばらの芽などしめやかにむしりて過ぐる人あるゆふべ
くれなゐの苺の実もてうるほしぬひねもすかたく結びし唇
行き暮れて灯影へ急ぐ旅人のかなしく静けき心となりたや
君がふと見せし情に甲斐なくもまた一時はいそ/\としぬ
一度は我がため泣きし男なりこの我がまゝもゆるし置か…