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レオナルド・ダ・ヴインチの手記
レオナルド・ダ・ヴィンチのしゅき
作品ID59231
副題―― Leonardo da Vinci ――
――レオナルド ダ ヴィンチ――
著者ダ・ヴィンチ レオナルド
翻訳者芥川 竜之介
文字遣い旧字旧仮名
底本 「芥川龍之介全集 第十二卷」 岩波書店
1978(昭和53)年7月24日
入力者かな とよみ
校正者フクポー
公開 / 更新2019-04-15 / 2019-03-29
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


         *
 おお、神よ。爾は、一切の善きものを、勞力の價を以て、我等に賣り給へり。
         *
 古人を模倣する事は、今人を模倣する事より、賞贊に値する。
         *
「生」に於て、「美」は死滅する。が、「藝術」に於ては、死滅しない。
         *
 感情の至上の力が存する所に、殉教者中の最大なる殉教者がある。
         *
 我等の故郷に歸らんとする、我等の往時の状態に還らんとする、希望と欲望とを見よ。如何にそれが、光に於ける蛾に似てゐるか。絶えざる憧憬を以て、常に、新なる春と新なる夏と、新なる月と新なる年とを、悦び望み、その憧憬する物の餘りに遲く來るのを歎ずる者は、實は彼自身己の滅亡を憧憬しつつあると云ふ事も、認めずにしまふ。しかし、この憧憬こそは、五元の精髓であり精神である。それは肉體の生活の中に幽閉せられながら、しかも猶、その源に歸る事を望んでやまない。自分は、諸君にかう云ふ事を知つて貰ひたいと思ふ。この同じ憧憬が、自然の中に生來存してゐる精髓だと云ふ事を。さうして、人間は世界の一タイプだと云ふ事を。
         *
 善く費された日が、幸福な眠を齎すやうに、善く用ひられた生は、幸福な死を將來する。
         *
 自分が、如何に生く可きかを學んでゐたと思つてゐる間に、自分は、如何に死す可きかを學んでゐたのである。
         *
 鐵は、用ひない時に、[#挿絵]る。溜り水は、濁つて、寒天には、氷結する。懈怠が心の活力を奪ふ事も亦、これに比しい。
         *
 おお「時」よ。一切を滅却する爾よ。おお嫉みふかき時代よ。爾は、年の鋭き齒牙を以て、徐なる死に、一切を破壞し、一切を併呑する。ヘレンは、老年が面上に刻した皺を、鏡中の影に認めた時、泣いて、何故に彼女が二度までも誘拐し去られたかを怪んだ。
 おお「時」よ。一切を滅却する爾よ。おお一切を滅却する嫉みふかき時代よ。
         *
 木は、木を滅する火の燃料となる。
         *
 最大の不幸は、理論が手腕を超過した時である。
(抄譯)
(大正三年頃)



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