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![]() はくさいのスープに |
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作品ID | 59649 |
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著者 | 北大路 魯山人 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「魯山人著作集 第三巻」 五月書房 1980(昭和55)年12月30日 |
初出 | 「星岡 38号」星岡窯研究所、1934(昭和9)年1月 |
入力者 | 江村秀之 |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2021-06-17 / 2021-05-27 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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白菜の煮方などは、一般にあまり吟味したやり方が行われていないと思うので、とりあえずここで扱うことにした。
白菜というものは、元来中国青島の産であるが、昔から朝鮮にも多く栽培されていた。これは寒帯にできる野菜であるから、東京辺つまり暖地のものは、品質があまりよくないといえよう。
白菜の料理は、魚や肉には軽い調節になってよいものだ。白菜は純日本のものではないから、いわゆる日本料理として扱いにくいものの部類に属している。しかし、白菜のスープ煮というものはなかなか気の利いたものである。鶏の骨ばかり(肉のまじらないもの)叩きつぶしてスープを取る。肉のまじったもののスープは、味が俗になってだめだ。このスープは塩で味をつけるのがよろしい。この場合醤油は用いない。醤油では色がついて、白菜の白さを汚してしまうから感じが悪い。あの白い白菜の色を殺してしまうと、よそゆきの料理にはならない。醤油はヤマサ、キッコーマンはもちろんのこと、薄口にしても色がつく。それではお惣菜になってしまう。白菜のスープは純白であること、白菜が白菜そのままの色を保っていることが貴いのである。
次に味についても、白菜自体の甘味があるから、やはり塩で加減するのがよろしい。煮えたものを器に盛るときは、薬味を用意しておいて添える。
これは日本の新料理であるが、中国料理のやり方も発見されるし、朝鮮料理の気分も味わえるであろう。白菜の切り方や、器の選び方によって、日本料理の感じもする。そして、これは他の料理とも調和する。簡単だから悪い料理ではないといえるだろう。
(昭和九年)